限界集落旅の名言

限界集落等の過疎地に住む人生の先輩方から「人生訓」を収集する旅

限界集落の旅-栃木県日光市中三依集落で隠れキリシタンの痕跡を見つけた-

前回、ホンダのアクティを乗り回し、限界集落の旅で栃木県日光市中三依にたどり着いた。集落を散策後、四季温泉から『道の駅日光』での車中泊

目次

車中泊失敗で疲れ切る

眠ったはずなのに、体は疲れきっていた。

原因は、限界集落の旅に使用しているホンダのアクティを、この当時(2018年の初夏)車中泊仕様に改装していなかったため、朝には、窓から差し込み日差しで焼かれ、寝汗の海で溺れ、とどめに頭痛で頭をカチ割られるかと思った。

車中泊には隠れ家的男のロマンが詰まっているが、窓からの直射日光を避ける目張りや寝床を完全フラットにしておくことや、眠りやすい寝間着の用意等、それなりに準備をしておいた方がいい。100円ショップやホームセンターを活用すれば、お金はあまりかけなくてもこれらの準備はできる。

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この当時の車中泊装備(2018年初夏)

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車中泊、苦しみの理由(1)

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車中泊、苦しみの理由(2)

『ぎゃらりーカフェ扇屋』と店主の格言

中三依に移動した後、甘いコーヒーなどで頭痛を癒そうと思い、前日に見つけた喫茶店『ぎゃらりーカフェ扇屋』に入った。

店内の真ん中には囲炉裏のテーブルと、丸太をそのまま輪切りにしたような椅子が置かれていて、白髪紳士が一人、コーヒーを待っていた。僕はお爺さん店主に出迎えられて、白髪紳士と相席になった。相席といってもテーブルには5人が座れるくらい大きさで全く息苦しを感じない。店内にはこのテーブル以外にも2人掛けの席もあり10人程度座れる。

 

お爺さん店主にコーヒーを注文した。お爺さんといってもかなりのガタイと風格。きっと昔はこの集落のガキ大将だったに違いない。店主は石臼でコーヒー豆をゴリゴリと摺り始めた。お店に来た観光客はこの石臼で『コーヒー豆摺り体験』できる。旅の思い出にモノではなく体験を持って帰れる粋な演出は素晴らしい。
さらに店内には店主の造った湯のみや皿(購入可能)といった焼き物や水墨画等が並び店主の趣味を伺わせる。焼き物は静かに力強く、水墨画は繊細。この二面性、店主はふたご座ではないだろうか。店主の造った作品の他にも、お土産用の山菜等も並んでいて、このお店に来るだけで休憩とお土産調達を同時に済ませさせられるから、中三依を突っ切る121号線を通る際には立ち寄った方がいい。

 

コーヒーの用意をしながら店主と白髪紳士が焼き物の話をしている。この白髪紳士は宇都宮で料理人をやっている74歳の男性で、陶芸など芸術作品の収集が趣味らしく、店主の造った新作としげしげと眺めて、これはバランスがいいとは言えないが味がある、などとコメントしていた。店主は白髪紳士のことを『先生』と呼んでいた。ちなみに店主はこの当時81歳だったが、なんとなく白髪紳士の方が年上に見えて文字通り先生の様だった。

 

焼き物の見方

「焼き物は奥がふかいよ~」

 先生と店主の会話になんとなく入って、先生に焼き物の見方を教えてもらった。

 

『陶芸は手で見る』

見ただけでははっきりとはわからない焼き物の良さを感じることができる。例えば抹茶茶碗の飲み口を触ってみると、つるつるとしたものとザラザラしたものがある。使用感を考えるとつるつるしていた方が良く、厚みは均一なものの方がいい。ご主人が作った作品を触ると、つるつるしたものもザラザラしたものもあった。それら中から、先生はあえてザラザラした物を買った。感触以外にバランスも微妙に良くないのだが、先生曰く、バランス不均一だからこの作品は良い、という。『感触』や『厚み』など作品の良さを判断する一定の基準はあるが、焼き物に対する愛着や好感などは最終的に本人が決めるものだ、と先生は語る。焼き物とは人生みたいなもんですかと聞きたかったが、やめた。

 

先生が帰った後、店主に僕の旅のいきさつを説明して、ちょっと店主さんの人生経験を学ばせていただきませんでしょうかと聞いたところ、了承してくれたのでタダで聴かせてもらうのもナニかと思い、トチモチを注文した。

中三依では『栃の実』が沢山収穫され、各家庭でトチモチにして食される、ある意味ソウルフードといっていい。かつて多くの家でトチモチを手づくりしていたが、高齢化に伴いトチモチを作れる体力のある人が減り、今では、『扇屋』と自治会長さんの家でしか作っていないという(扇屋の店主は自治会長さんのお母さんにトチモチの作り方を習ったので自治会長さんの家の味)。さらに少子化も相まって、トチモチが作れる人そのものが減ったのも原因である。『扇屋』のトチモチはまさに絶滅危惧食品。

 

トチモチが来た。自家製の粒あんが乗せてあり、これまた美味。しっかりと庵の風味と甘味が感じられるもののすっきりとした後味が特徴。500円くらいだったのでお勧め。

 

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『扇屋』のコーヒー

『あの時、勉強しておけば…』

ご主人のお店は集落では『阿部商店』と呼ばれている。『扇屋』は今では喫茶店だが、元々山菜や佃煮等を扱う食品販売所だった。ご主人は子供のころはガキ大将(やはり)アグレッシブな少年時代を過ごしていた。ガキ大将らしく「家が農家だから計算なんかできなくていいだろう」などとうそぶいていたら大人になってから、すこぶる困ったらしい。商売をするには読み書きそろばんが必要なのか…あの時、勉強しておけばよかった、という思いは今でも忘れないという。今の時代Google Homeに質問すれば何でも教えてくれるから勉強しなくてもいい時代がくる、かもしれないけれども、思わぬところで子供時代の学びが必要になるかもしれないから、勉強できる機会があればしといた方が良いんだろうなと思った。

 

『言葉は伝わらなくともハートで伝わる。それがおもしろい』

しかし、時代が店主に追いついた。計算機ができたのである。「これは俺のためにできた」とばかりに嬉しかったらしい。そんなこんなで悔しい思いをした店主は大人になってから社会勉強をした。その結果、言葉の壁を超えることに成功。仲間内で海外旅行に出かけ、みんなでお土産を買うタイミングで気を利かせた店主は、せっかくだから皆に安くお土産を買ってもらいたいと考え、現地の言葉がわからないのに店員さんに交渉を開始。最終的に、5個で7万円の品物を3万円にまで値切ったらしい。

「言葉は伝わらなくともハートで伝わる。それがおもしろい」
そして後日、値切った相手から、また来てください、と手紙が来た。値切ってくる相手には愛着を感じるんだ、頭がいいだけじゃだめなのさ、と語る店主。

 

『お客さんを必ず見送る』

店主は長い間、商売をやってきて、帰るお客さんを必ず見送ってきた。

これは店主が旅行先の旅館でチェックアウトの際に、女将さんが手を振って見送ってくれたことへの満足感が基になっている。お店で過ごした時間を心の満足で締められるように、お店の外まで体を出して見送っている。その結果、リピート率は相当高いそうだ(リピート率9割※『扇屋』調べ)

 

幸せの見つけ方

『人生は山あり谷あり、石の上にも三年』
店主はガキ大将だった頃からいくつも仕事を経験して、やがて、山菜などの食品加工を行う事業を始めた。しかも全くの未経験で始めたため、初めの3年は泣いたという。
『人生は山あり谷あり。石の上にも三年』挫けそうなご主人を祖父母の教えが支えた。
決して自分を大きく見せようとせず、商売も過度に拡大せず、辛抱強く、自分の仕事の質を深めていく。未経験から始めた仕事を、地道に頑張り、やがて軌道に乗せた店主。

「間口は小さく、奥深く。この『深み』にこそ『幸せ』がある。皆、好んで苦労するわけではないし、楽が一番、でも人生そうはいかないし、簡単に稼いだ金には重みがないから、すぐに使ってしまう。だから楽に稼ぐのが幸せとはかぎらない。『一歩一歩堅実に、我が人生、牛歩の如く』生きるにあたってこれが重要さ」

 

「また来ます」

扇屋を後にした。

店主は手を振って見送ってくれた。

 

▼ぎゃらりーカフェ扇屋▼

tabelog.com

『山の幸直売センター』とご夫婦の格言

隠れキリシタンの痕跡

扇屋を後にしてうろうろしていたら『山の幸直売センター』のご夫婦と目が合い、ここで会ったも何かの縁だと思い店に入った。

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山の幸直売センター

旅の事情を話すと奥さんが中三依民俗学をまとめた研究書を持って来てくださった。

本によると、中三依の集落はかつて隠れキリシタンの隠里だったらしく、その痕跡がわずかに残っているという。その証拠がお地蔵様の手元。

直売所の向かいにある子育て地蔵の手元を見てみよう。合掌部分にさりげなく十字架を模したようなミゾがある。これが隠れキリシタンの痕跡であるという。

※余談:キリシタンは『切支丹』と書くらしい。

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写真がないため手描きイメージ

 

当時、隠れキリシタンたちはお地蔵様に手を合わせるフリをして「マリア様」と祈ってたのかもしれない。この痕跡と推測が当時の事実を表しているのなら、したたかな話である。子供の頃に読んだ漫画『日本の歴史』の類では踏み絵を拒否し、あぁマリア様、と言って踏み絵にキスをして連行される隠れキリシタンの様子が描かれていたが、もしかするとそれは一部の人たちだったのではないだろうか。実は多くの隠れキリシタンが、何かしらに十字架やマリア様を見出しては、密かに舌を出しながら、祈っていたのかもしれない。「さっきは踏んでしまいました。すまんですマリア様」などと思いながら。

神仏習合の国だからこそあり得る、八百万にマリア様を見出す仏基習合スタイルかな。

 

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商売繁盛で猫持ってこいと言わんばかりに猫だらけの店内

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陶芸作品

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熱い言葉

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熱い言葉2

これからの商売について

なんで直売所を始めたのか聞いたところ。

『これからは自然的な食べ物が求められるだろう』

1980年代、山の幸のご主人は、高度経済成長を経て、大量生産・大量消費の時代から、体に優しい自然食が求められる時代が来ると読んだ。狙いはドンピシャ当たり、多くの人がここには訪れている。実際、僕が奥さんやご主人と話しているときにも若い旅行客や村の人、遠方から頻繁にこの場所に来る方も見えた。時代に合わせた自然食の在り方が直売所として形になったという一方で、後に北海道を旅したときに、『直売所とは、多額の中間費用を抜かれて安く叩き買いされることに憤りを感じた農家が、自分たちの作ったものに適正価格をつけて、自分たちで売ってきちんと儲けるために始めたことが起源』だとも聞いた。

 

やがて直売所が進化して『道の駅』になった。道の駅は直売所としての価値に加え食堂を設け、食文化を発信する目的も加わり、観光資源になった。

 

次に何が流行るかもわかってる、というご主人に、えぇ?何が流行るんですか?聞いてみた。

「今後何が流行るかといえば『直売所』と『道の駅』、これら以外だね。これら以外だね。商売のノウハウと一般農家がマッチングすれば新たな可能性があるな」

そこからが聴きたいところだが、その場合は課金を、ビジネスプランへの加入が必要な感じがする会話の切れ方だった。初対面の人間にはそこまでは語れないだろう。

 

奥さんがかなり前向きな人だった。

趣味で塗り絵やクロスワードパズルをやっていて、完成したら人に仲間内で見せ合っているらしい。

「自分の勉強のためと、若い人に見せると刺激になる。競い合って、ボケてる暇ない」

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奥さん愛用の『脳活性パズル』

人間関係を構築する大事なこと

『良いことは人に伝える』

他にも奥さんが日々、心がていることを聴いてみた。

すると次のように行動しているらしい。

 

良いことがあると人に教える。

すると、人から良いことを教えてもらえるようになる。

良いことを言っているから、考え方が前向きに変わる。

自分が変わると、周りの人も変わる。

【結果】良い人とばかり出会えるようになった。

 

この日の僕との出会いも良い出会いだったらしく、これも日頃の行いの成果だ、と奥さんは語る。

またご夫婦はともに、人間とは感謝しあうことが大切だ、と言っていた。相手に見返りを求めず、してもらったことは誠意をもってお返しする。互いにこの気持ちを繰り返し行動で示していれば、相手を慈しまずにはいられない。だからこそ助け合い、強固な信頼や結束を作る。

凄く真面目な格言なのだが、その旨を語るご主人の発言の節々に毒を感じるのが面白かった。どこまでも前向きで柔和な奥さんと、微妙に毒をのあるウィットに富んだ発言をするご主人だからこそ、調和がとれているのだろうなと思った。ある意味夫婦の理想形である。

 

▼山の幸直売センター▼

map.goo.ne.jp

 

このお店にはソフトクリームや、板チョコもなかのアイスなど多種多様なアイスが売られている。ご主人曰く、子供が来てアイスも食えないなんて悲しいだろうから置いてある、とのこと。毒舌の中に潜むのは本質的な優しさ。機会があれば立ち寄ってみていただきたい場所である。中三依では雪の降る季節(11月)にはほとんどの店が冬季休業中。

 

次回:『男鹿の湯』で1,000件の温泉を巡った温泉フリーク女将に会う

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