限界集落旅の名言

限界集落等の過疎地に住む人生の先輩方から「人生訓」を収集する旅

限界集落の旅-東京都西多摩郡檜原村で宮大工さんに仕事論を聞く(2)-

東京都西多摩区にある『檜原村』で宮大工の爺ちゃんに突撃インタビュー。仕事論を聞いた。話が進むにつれて、この爺ちゃん、真面目で職人気質な格言の間にオヤジギャグを挟んできてはツッコミを待つ、ひょうきんな爺ちゃんだということがわかった。

▼宮大工さんインタビュー前編▼

genkaishuraku.hatenablog.com

 

-日々の努力の仕方-

大工は5年10年できるもんじゃない。探求することが必要だと爺ちゃんは語る。
城の床下に潜って構造を研究してみたり、鳥居の一部だけを写真に撮って徹底的に分析したり、外出時に気になる構造の家があればその家を訪問して見学させてもらっていたという。

「クエスチョンがつけばとことん追求する。50歳くらいまでやっていたかな」

 

屋根には『男』と『女』の区別があることや、神社を参拝して手を合わせるときには右手を左手よりもやや下げて合掌すること(左手:神様 右手:自分 という区別があります)、木は木目の偏りによって将来的に曲がる方向が決まっているから柱にする木材は数年後の曲がり方を予想しつつ建具に使うこと、屁をこいた相手には敬礼をすることなどを教えてもらった。『屁』のくだりでまた爺ちゃんが僕をキラキラした目で見ている。何かに気づくことを期待している。

 

-今のも駄洒落ですか?-

というと爺ちゃんは、あぁ気づかんかったか、と少し悲しそうに微笑みながら、

「陛下!(屁ぇか)」と良く通る声で敬礼した。

 

そうか、屁ぇか!『陛下』で『屁ぇ』か!

ボケを説明させられるくらい照れることはそうはないよなぁ、申し訳ないなぁ。そう思いつつも、この緊張感はツラい…、と思い始めていた。

 

話は建築に戻る。爺ちゃんの建築ちょっと昔ばなし。

かつて爺ちゃんの元で修行していた大工志望の中学生がいた。この中学生がなかなかの力を秘めていて、爺ちゃんが特に何を言ったわけでもないのに現場の技術をいつの間にか自分のものにしていった。「(金づちや鋸を使う)音を聞けば実力の程はわかる」と爺ちゃんは語る。やがて中学生は卒業を迎える。学業優秀だった中学生は進路相談の時に学校の校長先生から「頭が良いからもう勉強はいい。大工に修行に行け」と後押しされた。なんかもカッコいい校長先生である。ヒトは無知だから、バカだから学校に行くといったところだろう。

 

爺「まぁ、人生、島倉千代子だな」

僕「い、色々ですね!」

初対面の人間に良い話をしつつオヤジギャグを差し込むスキの無さと強心臓。そして気づいてもらったとばかりに、ちょっと嬉しそうな爺ちゃん。ボケる人には『突っ込み』をしなくても『気づき』でも喜ばれるらしい。

 

 

続いて人生の楽しみについて話題は移る。爺ちゃんは『日本凧の会』に入っているという。
この会のことは子供の凧あげ教室で知ったらしく、今も凧を造っている。自分で凧を造り、絵を描く、それが商品になるような程、上手い。でも、爺ちゃんは決して自分が作った凧だと名前を出さない。「上には上がいるからな」とストイック。
爺ちゃんは凧の他に能面も造っている。酒を飲んだあとの顔の油を能面に塗って風合いを出すとのこと。能面に妙な迫力というか、念がこもっているような趣を感じる理由は製作の手法にあるのかもしれない(この能面は写真に撮らせてもらいましたが、作者の意思を尊重して未掲載。でも本当によくできている)

「ストレスで悩んでいる暇ないよ。自分が好きなことして生きてられるもんな」

仕事に趣味に夢中で生きているからストレスなんかすっ飛んでるか、感じている暇もないんだろう。オヤジギャグを挟んでくるのも、悩まずに生きるための知恵なのかもしれない。

 

爺ちゃんには終始、柔和な雰囲気の中で下記のように職人の熱量を感じることも聞かせて貰った。
「負けて悔しくて泣く気持ちが必要。今度は負けないように」

「物はよく見るようにしている。次第にバランスがわかってきて、どうしたらいいかわかる。手造りと機械製では、ちょっとした歪みとか味が全然違うね」

「相手がモノになるかどうかわかるっていうのは、自分が相手と同等かそれ以上ってこと」

「慣れりゃどんな仕事でも楽しい。ただ、慣れてくると怖いこと(失敗)もする」

酒も飲まず職人の道を追求しつつ、それでいて、きちんと仕事の合間に食事をしたり趣味を楽しみ気持ちの緩めどころをつくっている。気持ちのコントロールの仕方を知っているかどうかが職人で生きていくために必要な技術の1つの様に思えた。オヤジギャグもその1つの仕掛けなのだろう。

 

-毎日めちゃめちゃ充実してはりますね-

「お母さんくらいかな」

 

-は?-

「まぁまぁかな(まぁまぁ=ママ=お母さん)」

 

センスに狩野英孝氏を感じる爺ちゃんだった。

f:id:genkaishuraku:20190611000800j:plain

檜原村の草ヒロ

 

次回:檜原村の居酒屋さんで絡まれる。

 ______________________________________

限界集落旅のYOUTUBEも公開しています▼

www.youtube.com