限界集落旅の名言

限界集落等の過疎地に住む人生の先輩方から「人生訓」を収集する旅

限界集落の旅-和歌山県東牟婁郡北山村で500円貰った話-

前回までの続き:千早赤阪村の高齢者イベントで和歌山県に、じゃばらという珍しい柑橘類で村おこしをしている限界集落があると聞いた僕は東牟婁郡(ひがしむろぐん)の「北山村」に向かった。

 

▼前回の記事▼

genkaishuraku.hatenablog.com

 

 

 

緊張しながら和歌山県へ向かう(心境の変化の図)

2017年の11月頃に僕はレンタカーを走らせて和歌山県東牟婁郡北山村に向かっていた。この地域は「飛び地」という特殊な地形をしており、奈良県の南部に食い込むように位置している人口432人(2016年時点)の村である。「じゃばら」というこの地域に自生する珍しい柑橘類で村おこしをしており、じゃばらを使った加工食品で年間数億の売り上げを計上している。

 

▼じゃばら▼

kitayamamura.my-store.jp

 

千早赤阪村のクリスマスパーティに参加していた合間にこっそりと向かった。京都から3時間半。和歌山って関西からでも遠いんだなと気づく。

 当時の運転中ことはあまり覚えていないけれど、「何か」が危なかったという記憶だけは残っている。

 

あんまり記憶がないのは当時ものすごく緊張していたからである。

社会勉強のためとはいえ初対面の人生の先輩に話かけるのは毎回、口から心臓が飛び出すくらい怖い。

このときも車中でずっと緊張していたからあまり覚えていない。

 

■旅に行くときの心境

「3時間半かかるのかー」

「あと2時間半か」

「もう1時間か(なにか焦り始める)…」

「あと20分で到着か(心臓が喉までせりあがってくる)」

「あと7分か(劇画タッチの悪党が頭によぎる)……」

以上

 

そんなこと考えている間に到着。

車を停めて村を散策。山と広大な川に囲まれた風景に、のどかだなー、なんて見とれていると村人が飼っている猟犬に吠えられてビックリする。お犬様がお住まいのボコボコにへこんだ鉄製の檻は、世紀末を牛耳る悪党が飼っていそうな趣がある。

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のどかな風景

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カラス除け?





北山村はかつて林業が盛んに行われており、伐採した木材を川の流れに乗せて下流まで運んでいた。現在、林業は衰退したものの広大な川の流れは夏場にラフティングの場として観光資源になっている。

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川下りスポット

さらに温泉施設もあり食事も可能。

地元の人もよく利用している(後ほど入浴。地元の人が、もう猪肉は食い飽きたなと話していた)。

 

しばらく歩いているとある家の庭先で家事をしているお婆さんを見かけた。3回素通りしたあとに、いやいや…と思い直して戻って話しかけると、あらー遠くからわざわざ大変やねぇ、と親身なご対応。

旅の経緯を話してお婆さんのことをお聞きした。

 

格言集

「全然、寂しくない。テレビがツレ」

20年前に、お婆さんは旦那さんを看取ってから、一人で暮らしているという。旦那さんは豪快な人だったようで、狩猟期間になると山に出かけて猪を狩ってきては毎晩のように酒盛りをしていた。大変だったんじゃないですかと聞くとそれなりに大変だったらしい。

 

そんな豪快な男が旦那さんだったら、今一人でくらしてるのは寂しかないですかと聞くと、寂しくない、テレビがツレやとおしゃった。お婆さん曰く、何にもしなくてもテレビは勝手になんでも教えてくれるらしい。そして、近所の人と近くの温泉施設に行くから楽しい。

 

「山では男も女もみんな同じ。大笑い。わっはっは」

お婆さんの仲間は近所の人だけでなく三重県奈良県にもいる。

というのも、この辺りでは年に一回「じゃばら」の収穫が行われる。その時に三重県奈良県からも高齢者が集まり、みんなで一緒に山登りをしてじゃばらの収穫を行う。 収穫の合間にお茶やお菓子を食べて休憩しながらおしゃべり。 いろんな話が聞けてお金もらうよりも楽しいとのこと。

 

山に登ってて熊と出くわしたりはしませんか、と聞くと、鈴を5~6個つけていれば平気、田舎の動物はこれで避けてくれるんやとのこと。むしろ人に慣れた都会の動物の方が怖いらしい。

確かに、田舎では人間と猛獣の生活区域が分かれているけれども都会では、カラスや猫が袋詰めされたゴミ袋をあさるように互いの生活区域は曖昧である。人の生活圏に入ってくる動物は、人をナメているか命がけで食べ物を求めに来ているかどちらかだと思われる。人をナメているのをヤンキー、こっちを殺す覚悟ができているのを殺し屋とすれば、どっちにも絡まれるのは嫌だなと思った。

 

「過保護に育った子どもの多くが傷ついてる。 “あれしたらアカン”“これしたらアカン”と言われて、 小遣いもろくにもらえず、そら悪いこともする」

話は子育てに移る。お婆さんには50代のお子さんがいるそうでまだ独身らしい。仕事に熱心なのはいいけど、真面目すぎるのは親としてツライという。時期はあるから結婚しておいた方がエエとつぶやきながら最近の親について、最近の親は過敏やなぁという。

「オンブするのはエエけど抱っこするのはアカンというんやて」

オンブの方が落としてしまう可能性があるからって過保護な話である。

お婆さん曰くそんな過保護が子供を傷つけているようだ。

 

お婆さんは自分の子供時代を、昔の子供は木刀を持ってヤクザな遊びをしても盗人だけはしなかった、と振り返る。

子供同士で喧嘩をしながらも加減や秩序を学び、やって良いこと、悪いことを感性に刻みこんでいた。これはやったら仲間内でもドン引きやでぇと思える品性を身に着けていたのだろう。

近い将来、過保護な子育てが原因で子供は、やって良いこと、悪いことが分からなくなり、やがて品性も無くしてしまうのではないかなんて思ってしまう。

 

ふと自分の子供の頃を振り返ると、醤油をかけすぎると体に毒だから、と言って小学生2年生くらいまで醤油さしは親が持って食べ物に醤油をかけていた。それで今でも醤油をさすのに苦手意識(?)がある。

醤油さしくらいで品性が薄まるとは思わないけれども、こういう話の延長に諸悪の根源があるのかと思うと、となんとも言えない気分になる。勿論、そんな過保護な部分に助けられたこともあるのだけれどなぁ。

 

ちょっと前にYouTubeでも「なぜ人殺しをしてはいけないのか」といった類の動画が上がっているのを見たときに、疑問に思うことは大事だとしてもアカンもんはアカンだろう、と思った。

ここ十年くらいで「論破」という言葉に重きが置かれるようになっているのは過保護が原因ではないのか。

 

お婆さんは、賞味期限2~3日くらい過ぎても大丈夫やろ。

 

「兄さんも人を喜ばせたら、人の心を感ずるようになる」

話は佐川急便のあんちゃんに移る(別に佐川限定じゃないけれども)。

「お腹に溜まるものを渡すようにしてる、お腹減ってると余計にイライラするから」

お婆さんはわざわざ遠くまで荷物を運んでいれる郵送業者の人に何かしら食べ物かジュースを渡すようにしているという。しかも、その場ですぐに消費しないといけないようなものを渡すと具合が悪いと思えば、いつでもジュース(暑い日は500ml)を買えるように150円くらいを渡すなど、臨機応変な気遣いをしている。運送業者の人は、おばちゃんありがとう。でも130円でエエで!というらしい。

この20円の譲り合いは聴いててほっこりする話だから、奥ゆかしくてケチ臭く無くて良い。

 

お婆さんが子供の頃は戦後まもなく日本が貧しかったため、遊ぶ間もなくずっと働いていたらしい。

「私は苦労した分、人には優しくするようにしている」

と語るお婆さんは、自分が辛い思いをしないと人の気持ちはわからない、兄(あに)さんも人を喜ばせたら人の心を、感ずることができるようになる、と続けた。これはさっきの子育てにも繋がる話だろう。

 

「誤解するより、辛抱の仕合い。夫婦は協力しあわなあかん」

続いて話は結婚や異性に関するもの移った。

どういう女性を選べばいいですか、と聞くと、お金遣いが荒い人はアカンという、また結婚したら夫婦は、辛抱のしあいが大事、だともおしゃった。

辛抱の「しあい」を「仕合い」にすると「幸せ」の語源「仕合わせ(偶然、めぐり合わせ)がきれいに収まる考え方だ思ってちょっとニヤッとしてしまった。

 

お婆さんと別れる

「兄さんと、ここで会ったのも何かの縁じゃ」

お婆さんは、ご飯奢ったるわといって500円をくれた。

やまのやど(温泉施設)で使うといいといわれたが、勿体なくて使えなかった。

(この500円のことを友人に話したところ、俺なら即エロ本買っちゃうね。貰って2秒でエロ本だよ、と鼻の穴を膨らませるもんだから、何その品のない企画、と笑った)

▼この時のトラベラーズノート

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トラベラーズノートと500円

 

「夏にまた、ばあばがまだ元気なら会いに来ておくれ」

だなんて切ないことを言われたので、夏にラフティングしに行きます、と答えたが翌年(2018)の4月に僕は東京に引っ越してしまっているので、結局に行けなかった。2019年にお礼を片手に行ってみようかと思っている。

 

『やまのやど』の写真

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カツカレー(おいしい)

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温泉施設の暖炉(おしゃれ)

 

おまけ

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レンタカー返却時に走行距離が66,666kmになった

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返却前に給油したらスロットが揃った

▼やまのやど▼

www.vill.kitayama.wakayama.jp

 

 次回:鳥取県智頭町板井原でインタビューが上手くいかない

 

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