限界集落の旅-東京都西多摩区檜原村-一度、死のうとした人と知り合う
東京都西多摩檜原村の重要文化財『小林家住宅』のナビゲーターしている作家さんに『言葉』の楽しみ方を聞かせてもらった。その途中、作家さんの携帯電話が鳴った。
▼前回の記事▼
小林家住宅から150m程山を下ったモノレール乗り場にお客さんが来たらしい。作家さんはモノレールで山を下りバイク乗りを連れてきた。
バイク乗りはがっちりした体格に茶色いロン毛と少し下がり気味の目尻が特徴の37歳くらいの男性だった。昔、ちょっとだけ働いていた風俗ポータルサイト運営会社(今は無い)で僕より後に入ってきた人に雰囲気と声が似ていた。そしてその人に6万円貸したことも思い出した(お金はちゃんと返ってきた)。
バイク乗りの男性が普段は檜原村から1時間くらいのところに住んでいて、たまに檜原村にツーリングしにくるらしい。作家さんとは知り合いらしく何か話しながら小林家住宅にやってきた。みんなと合流し雑談した。
バイク乗りの男性は30代に差し掛かった時に自殺未遂を経験していた。
仕事を辞めて実家に引きこもった男性は、親の世話になっている自分が嫌になり、死ぬプランを考えた。
実家で死ぬのは迷惑がかかるから、死ぬならどこかの橋の下で。
シラフで死ぬのは怖いから、死ぬならお酒で意識を飛ばしてから。
そして、準備万端死ぬために橋の下で盛大にお酒をあおった。
恐怖を忘れて心臓を一突きするために可能な限り意識を飛ばした。
気づけば家の布団の中にいた。
目覚めたときには『あれ?』と思ったという。
「人間死のうと思ってもなかなか死ねないもんだね」
体は生きようと努力する。しかも、風邪をひかないように暖かくしようとする。
自分のしぶとさに気づいて以来、頑張って生きることにした男性は現在、食品工場で勤務している。
風俗ポータル会社で出会ったあの男性も今、元気に生きているだろうか…。
30代で死のうとしたってことは、つい最近のことですか?
「いや、十年以上前だよ」
え?10年?
「俺、50歳なんだ」
えっ?
「親も若く見られるから遺伝だな」
バイク乗りの男性は53歳の彼女がいて、たまにお孫さんと遊んであげるらしい。
「俺、結婚歴はないけど、結婚せずとも孫ができたからすげぇ得した気分なんだ」
あの日のバイク乗りの男性は今頃何してるだろうか。久しぶりに会ってみたい。
バイク乗りの男性は今まで大阪人に会ったことがないらしく、僕の話す関西の方言を珍しがっていた。
「なんでやねんって、使わないんですか?使いたくならないですか?舞い散る桜の花びら一枚一枚に、なんでやねん!なんでやねん!ってつっこみを入れてみたくなんないですか?」
そんな、なんでやねんの無駄遣いしないですよ。なんでやねん一発の重みが減っちゃいますもん。桜もボケで散ってるわけではないですし。
などといいながら小林家住宅の営業時間も過ぎたのでモノレールに乗って下山することになった。
作家さんがモノレールに帰り分のガソリンを補充した。ペットボトルに入った薄い麦茶かエナジードリンクみたいな色のサラサラした液体をモノレールに注ぐところは男心をくすぐった。
行きのモノレールは乗客が2人だったけれども、帰りは4人だったので行きのときよりも少し楽しかった。
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