限界集落の旅-東京都西多摩郡檜原村-作家さんに言葉の楽しみ方を聞く
2018年のある日、東京都西多摩郡檜原村の『小林家住宅』という重要文化財に訪れた。
この施設のナビゲーターをしてくれる人が作家さんで言葉にまつわる話を聞かせてくれた。
小林家住宅について
重要文化財『小林家住宅』とは
東京西部の山岳地域に位置し、陣馬尾根と呼ばれる尾根筋上、標高750mの位置に建っている。檜原村では古くかラ炭焼きを行っており、当時小林家樹唄うは木炭の作業や運搬に尾根道利用などの周辺環境には適していた場所と考えられ、自然と共生しながら暮らしていた人々の生活をしのぶことができる。
重要文化建造物としての建築的特徴をご覧いただくことはもとより、健徳を活用した地域活性化の拠点として、山間部の暮らしの追体験、山歩きと連動した立寄り場所やイベントなど、観光協会のの企画事業、地元の団体との共同事業等公開と活用を行っている。『重要文化財小林家住宅見学のご案内』より引用
【見学期間及び時間】
4月1日~10月31日 午前10時~午後4時まで
11月1日~3月31日 午前10時~午後3時まで
【休館日】
毎週火曜日(冬季期間は積雪等により臨時休館になる可能性あり)
檜原村HPより引用【予約連絡先】
小林家住宅管理棟
090-5543-0750
受付時間 開館日の9:30~16:00(冬季:15:00)
※写真は下記のリンク先よりご覧ください。
▼小林家住宅▼
旅をしながら日本の各地には『〇〇家住宅』という歴史的施設が沢山ある事を知った。各所の『〇〇家住宅』はどれも古く、建物の形を維持するのはやはり難しいようだった。建物の内部の土壁が猫に叩き落されたり、外装が損傷したりしていて、修理されていた。そのため思っていたよりピカピカで昔の建築デザインを現代の技術で再現したような雰囲気がした。ヒトの体を少しずつ人工物に替えていって、どこからが基のヒトじゃなくなるのかを考えるような不安な気持ちになった。
小林家住宅にはモノレールに乗って移動する。
金属を素組したような線路が山の傾斜に沿って150mくらい続いていて目的地まで10分くらいで到着する。木々と山の風景に囲まれた道中で小林家住宅のナビゲーターさんがこの景観の観光ポイントを教えてくれた。
モノレールが一時停車すると右側の山を見るように促される。
「あの山の形がね、山という漢字の原型になったんですよ」
へぇ。
「その位置で見えますか?」
あぁ、ちょっと見づらいです。
「では少し動かしますね」
ガガガガ。
「どうですか?」
まだ、はっきりと見える位置ではなかったが微調整してもらうのが悪いような気がして、そうかー山ですか、とか言いながら写真を撮って後で確認することにした。
ただ冷静に考えると『漢字って中国から伝わったものではないのか?』と疑問が湧いてきた。しかし日本には文字が伝わったとされる奈良時代以前に使われていた『をして』などの神代文字があり、それが海外に伝わって加工されて漢字になり、日本に逆輸入されたという説もあるそうだから、そういう類の話なのか?と思ったが何かあまり足を踏み入れてはいけないことのような気がして質問はしなかった。ちなみ小林家住宅のナビゲータをしている人は作家さんである。色んな歴史的な情報に詳しいのだろう。
小林家住宅に到着した。ナビゲーターの作家さん(69)の他に70代の男性がいた。
自己紹介も兼ねて旅の事情を説明した。
僕ね日本各地の過疎や限界集落を巡って人生の先輩たちに人生訓を聞いて回ってるんですよ。すると作家さんは、かつて永谷園の社員も全国の名産物を調査するために日本を旅させられたという話をしてくれた。
そして作家さん自身も全国の名物を調査して一冊の本にまとめて世に発表したことがあった。思わぬ共通点に親近感があった。
僕の地元大阪府だと何が名物ですか?と聞くと『水ナス』他だという。
この当時、僕は東京に住んでいたシティボーイだったため後日、国会図書館に行き本を手に取って読んでみた。本には諸事情で数カ所行けなかった県があったが、車で移動すること実に3万キロ、各地の色んな食べ物の情報が掲載されていた。大阪府の『水ナス』の情報もばっちり載っていた。
▼本の情報▼
言葉の話
話題は作家さんのコピーライティングの仕事に移った。
というのも僕は肩書上コピーライターである(実力弱小で、ここ数年まともなコピーやネーミングを作ってないが)。
『言葉』について何か教えてほしかった。
仮面ライダーの名乗り口上について
作家さんはかつて仮面ライダーの脚本作りにかかわっていたらしい。
「昔、仮面ライダーV3の名乗り口上『天が呼ぶ 地が呼ぶ 人が呼ぶ 悪を倒せと俺を呼ぶ』ってつくったんだ」
『天知る 地知る 我が知る 人が知る』をもじったらしい。
意味:誰も知らないと思ってても、天地の神々、私、君も知ってる。悪事や隠し事は必ず露見するという意味。
※楊震が王密の賄賂を断った際の言葉。
既存の言葉を背景にしつつ、新たな意味を重ねるスマートな手法だと思った。
ただし後日、wikipediaで調べたところ、『天が呼ぶ 地が呼ぶ…』は仮面ライダーストロンガーの名乗り口上であることがわかった。ちょっと何かモヤっとした。
『言語空間』について
『言語空間』とは、言葉の間に人が想像できる空間を設けること。この部分にメッセージを込める。そしてこのメッセージで読む人とキャッチボールができるものこそが未来に残る物である。残る物は人が上から押し付けるような物ではないという。
『言語空間』を松尾芭蕉の句を喩えに説明してもらった
『荒海や佐渡に横たふ天の川』
この松尾芭蕉の句を聞いたときにどう思うか。大体以下のようになる。
- オレには関係ないね。
- 芭蕉が言っているんだからすごいんだろう(ブランド志向)。
- 言葉の空間を意識しようとする人。
佐渡島は金の採掘等が行われる地であり、流人の島でもある。あら波立つ日本海。沖の方から聞こえてくる波の音を聞くと悲しみがこみあげてくる。
流人:政治犯、人殺し、時代の都合が悪い人達。
言葉の空間を意識すると、随分と言葉の感じ方、楽しみ方が変わってくる。
受け止めた言葉をどう味わうかがその人の位。
「霊長類の人間。犬猫じゃない。物を創り出せるんだ」と語る。
1996~1997年にフジテレビ系列で放送されていた松本人志によるお笑い番組『一人ごっつ』で開催された『全国お笑い共通一次』で、用意された言葉を組み合わせて面白い言葉を作る問題の模範解答が『エレキの』と『ギター』を結びつけた『エレキのギター』だったのを思い出した。
『エレキのギター』という言葉はありそうでない。『の』なんかいらんやろうという面白さを感じてほしいとのこと。これも言語空間なのか。
「言葉は最高の忖度」
人に思いを投げかけ、人からの思いを受け止める。言葉とはそういうもの。
言葉は人間の生き方を教える
文学部は意味ないって話を聞いたりするんですが本当ですか?
「文学は『哲学』してますか?って言われる」
文学や言葉は人間がどう生きるべきが教えてくれる哲学だという。だから大事だと。
物事をリセットしたくなる→人間は汚れていると思うから。
物事を突き詰める(良いこと含めて)→結局、自分の醜いところに気づく。
「良いことも悪いことも、突き詰めれば結局、同じ内容になる。人はとらわれ過ぎ」
哲学本は難しくない
ニーチェとかサルトルとか哲学本が難しく感じるのには理由があるという。
「難しい海外の哲学本は翻訳家が下手だから。そして小難しく書くからダメ。そうなるのは書き手の技量不足。例えば、赤信号でに気づかずに進もうとしている人を制止しようとしているときの表現なら「Wait.」「Look.」これでいい」
※お勧めの翻訳本は平凡社の『西遊記』。西遊記は仏教、哲学、業を乗り越える良い話。
なかなかのプレミア価格。
ちなみに、この作家さんの握力は90キロ。
琉球唐手の師範的な仕事もしていたらしく、トンファーの扱いにたけているため握力が強いのだ。たしかにアボカドくらい叩き潰せそうな拳をしている。
また癌を患っていたが自然療法で治したとかオカルトなことを。
「酵素を摂取していたら臍の近くから黒いひも状の物がチュルチュル出てきて治った。今思えばあれががん細胞だったんじゃないか?」癌細胞とはそういうものなのか?
その特別な酵素を溶け込ませたジュースを飲ませてもらった。癌の治療の他、アトピー等のアレルギー症状も緩和させられるらしい。梅の砂糖漬のような味がした。美味。
良いことを教えてもらった充実感と、漢字の件や仮面ライダーの件で微妙に胡散臭さが残るのが良い。臭ぇジンギスカンの様に癖になる。
追加調査として次に小林家住宅に行ったときに『仮面ライダーストロンガー』の件や『桧原村の山が漢字の山のモデル説』を改めて聞きたい。そのときにしっかりとした説明が聞けたら幸いだけれども「そんなこと知らん」といわれたら、すごく怖い。
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