限界集落の旅2019-滋賀県の廃墟『土倉鉱山』雪まみれ-
前回からの続き:東京から滋賀県に向かう道中の静岡県で車中泊をしたものの、忘れ物をして東京に逆戻りする羽目になった。忘れ物を取り、改めて滋賀県を目指した。
▼前回の記事▼
- 朝から東京の高速道路は混んでいた
- スーパーホストのゲストハウス『キシダハウス』到着<滋賀県>
- 岐阜県との県境付近の喫茶『コーヒー軽食 けやきのした』<滋賀県>
- 土倉鉱山へ向かう<滋賀県>
- 『道の駅 星ふる里ふじはし』<岐阜県>
朝から東京の高速道路は混んでいた
東京入りしたのは6時頃だった。しかし、その頃には高速道路が渋滞していたせいで、午前3時に静岡県を出発したのにもかかわらず7時を回っても東京都の家に着かずそわそわしていた。
なんて働き者なんだ日本人は、と思ってトロトロ進んでいたら、助手席となりの路側帯を車が3台、ビュンと駆け抜けていった。なんぼ早く働きたいと思ってても急ぎすぎじゃないか、と思ったら、どうやら数キロ先で事故が起きているらしく、その処理に向かった車だったらしい。
げんなりして某チェーン店で景気づけにリーズナブルなカツ丼を食べたら、思ってたよりもお肉がパサパサだったので、あぁ、リーズナブルだと納得した。
スーパーホストのゲストハウス『キシダハウス』到着<滋賀県>
忘れ物を取り、住まわせてもらっている家のごみ捨てなどをして滋賀県に向かった。
この日は以前お世話になったキシダハウスのプチ新年会に呼ばれていたため集落巡りの途中に寄る予定になっていた。19時キシダハウス着の予定をオーナーさんに伝えてあるため、サービスエリアで眠りすぎないように休みつつ車を走らせる。スマホのナビ機能によると到着予定時刻18時54分と出ていたため、お、ちょうどエエな、などと安心したものの、最後の高速出口まであと600m、目的地まであと13kmの表示が出たところで一瞬、油断した。睡魔に負けかけたのだった。次にナビを見ると『目的地まであと24km』。
あぁ。
今日は、あぁ、が多い。
予定の時刻を20分くらい遅れて到着した。
「あぁ、よかったちゃんと来てくれた。道に迷ってるんじゃないかと思った」
キシダハウスではオーナーさんとご近所さんが既にちらし寿司などを作って待っていてくださった。
この日常的な食卓がバーカウンターと湖北の静かな空気にマッチするそんな空間がキシダハウスの特徴。
宴もたけなわ、マダムたちの話は尽きず。僕は風呂に入って、屁ぇこいて、とっとと寝た。
▼キシダハウス▼
キシダハウスは2017年にオープンし、わずか1年でスーパーホストに認定されたゲストハウス。スーパーホストになるには厳しい条件がある。
世界各地のゲストハウス等を宿泊できるサイトAirbnbによると以下の条件がある。
宿泊10件以上、または長期滞在3件合計100泊以上の受け入れ実績がある
レビュー獲得率50%以上をキープ
返答率は90%以上をキープ
総合評価4.8つ星以上をキープ
※Airbnbホームページより引用
☆4.8以上を維持はテストで言えば毎回96点取り続けるようなもんである。
全教科通知表『5』を維持するゲストハウス界のエリート(それでもたまに辛い評価はあるけれども)。そんなゲストハウスが滋賀県の湖北にひっそりと佇んでいるなんて、なかなか上品で粋な話ではないだろうか
翌朝、ゲストハウスの掃除をして、2冊目になる真っ新な『Guest book』の1ページ目に今回の宿泊の感想を書き綴り、岐阜県に向けて出発した。
岐阜県との県境付近の喫茶『コーヒー軽食 けやきのした』<滋賀県>
岐阜県に向けて道を進むとあまりに寒く、体の内側から暖を取りたくなったためセブンイレブンに寄った。ここで暖かいほうじ茶とブラックサンダーを買った。
雪がハラハラと降り、寒さは増していった。
岐阜県との県境付近で集落に入った。
ぽつぽつと民家がある中で、空家か喫茶店か微妙な家屋を見つけた。
『コーヒー』と書かれた旗が立っていたいて『営業中』と書かれた札が掛かっていたからおそらく開いているはず。お店の名前は『けやきのした』という。好奇心にそそられて店に入ってみた。
「いらっしゃい」
お店の中にはカウンターの向こうに年配の女性が一人いた。
この方はこの店のオーナーさんの奥さんである。
旦那さんが定年退職して始められて、普段は旦那さんと一緒に店番をしているのだが、今日は旦那さんに用があり、一人で店番をしているとのこと。
「ここ、元は喫茶店にしなかったら物置になる予定だったから店の外見はあんまり手を加えてないのよ」
店内は木を基調にしたモダンで柔らかな印象の内装に、住民の造った手芸品が並び、なんで内装と外装の力の入れ具合にこれだけ差があるのだろうかと思っていたら、奥さんの方から理由を説明してくれた。
居心地のいい店内は普段ならこの辺りの住人の方が集まる憩いの場になるらしい。
この日はオープンしてすぐという時間帯も影響して、お客は僕だけだった。そのため結構奥さんと話し込むことになった。
お店のメニューは格安設定。
朝はセブンイレブンの『ほうじ茶』と『ブラックサンダー』を1かけら食べただけだったことや、体の芯から温まりたかったから、『コーヒー』と『うどん』を注文した。
※ブラックサンダーは「朝からチョコレート菓子て栄養が足りへんのと違うか」と思って途中で食べるのをやめた。
はっきりいって体に優しいうどんの味。少し弱っているときでもどんどん食べられる。関西圏だけに出汁が効いていて、結構、薄味なのも良い。関西でよく使われる『薄口しょうゆ』は『濃い口しょうゆ』よりも塩分が高く、なんやかんやで塩辛い味になっていることがあるため、この薄味は本当に体に優しいと思う。
そしてこのうどんにつけられた自家製(だと思う)漬物もさることながら、この赤い付け合わせもポイント。
根菜の香ばしさと唐辛子のピリッとした熱さが『うどん』を変える。
わずかこれだけの量であってもかなりのピリ辛うどんに味変するため、入れすぎ危険!注意されたし(うどん1杯に3本~5本くらい)と言いたい。この調味料は割と癖になる味。
コーヒーは『カフェバード』というところでこの店のためだけに焙煎されたスペシャル仕様。付け合わせは山芋を混ぜ込んだ餅をレンジでチンして『柔らかおかき』にしあげたもの。コーヒーはこの辺りの気候に合わせて選ばれたもので、とても落ち着く味。
「僕、コーヒー飲もうとしたらドキドキするんです…。もし美味しなかったらどうしよかと思て。ここでは美味しいコーヒーに巡り合えた」
かつてここを訪れたお爺さんがこのコーヒーの感想をこのように話たらしい。
詠み人知らずのお墨付きコーヒー。
『柔らかおかき』はサクリとした軽い歯ざわりと、噛むほどに口の中で溶けるような触感、鼻を抜けるほのかに甘い香りが特徴である。
この辺りの地域では正月に餅をつかない家はないらしく、この『おかき』の基になっているお餅も自家製である。このふんわり食感と甘味は里芋だからだろうか。売ってたらおやつにしたい。
うどんとコーヒーがこれだけ安定感のある味だとすると、他のスパゲティやチャーハンも食べてみたい。
奥さんの名言(名言解説)
テーブルにこんな名言が貼ってあった。
これはどういう意味ですか、と奥さんに聴くと言葉の意図を教えてくださった。
旦那さんからがどこかの誰かから聴いてきた言葉らしい。
「教育の方はね、家に閉じこもってばっかりおらんと外に出る。毎日ボーっと生きてたらアカンということやね。教養の方はね、毎日用事を作って一生懸命生きなアカンということやね。それきいてその通りやと思たわ」
その後、奥さんとこの辺りで採れる山菜の話をした。
「山菜取りは嬉しいな。楽しいな。見つけるとワーっとなる!何も考えんでいいから脚の痛みも忘れる」
山菜は採るのも調理するのも楽しいらしい。
「山菜によっては調理に手間が掛かるけれども、それを押してでも食べたい。ホント美味よ」
そんなこと言われると、山菜取りがしたくなってしまうし食べたくなる。
『コゴミ』『ワラビ』『イタドリ』『ゼンマイ』春先から徐々に様々な野草が順番に生えてくるのを採取するため、春から夏にかけてかなり忙しいらしい。何も考えずひたすら採って、調理して、美味しい。こういう自分の生命活動にのみ直結する仕事ってストレス溜まらんやろうなと思った。山菜取りのベテランの奥さんには山菜が宝の山に見えるらしい。これも良い。今まではただの草だと思ってたものが宝に見えるのは得だ。
山菜料理は日ごろの食卓に並ぶだけではなく、法事のおかずに欠かせない逸品。
先ほど奥さんが『脚の痛みも忘れる』とは言ったものの、かなり高齢の方には山菜取りはできなくなってしまう。そのため、山菜取りができいお家に調理した山菜料理を持っていくとかなり喜ばれる。
「何もいらんさけぇ、これだけあったらエエ」
一体、どれだけ美味いんや山菜料理は。
※余談:このあたりの地域では「食べられない」を「あたらん」という。
この喫茶店にはいろんな人が訪れる。
「そうねぇ、無銭で旅をしている若者が訪れて、奥さんはおにぎりを渡したの」
平成最後の山下清がここに来たらしい。
「他にも、ひたすら道を歩く子連れのお父さんや、廃墟マニア」
このまま岐阜県に向かうと県境に廃墟マニアが集う『土倉鉱山』がある。
奥さんに土倉鉱山の場所をなんとなく教えてもらい次の目的地にした。
▼けやきのした▼
土倉鉱山へ向かう<滋賀県>
『けやきのした』の奥さんから有難いお言葉を拝聴した僕は、お土産を買って店を後にすることにした。
次の目的地『土倉鉱山』について
岐阜県の県境『土蔵岳』山麗、金居原(かねいばら)集落のはずれにある鉱山跡地。
『けやきのした』からだと国道303号線を岐阜県方面へ道なりに5キロほど進んだ先に左手に土倉鉱山への道を示す分かれ道がある。看板があるらしいが雪が深くて全く見えなかった。鉱山の周辺地域には江戸時代から人が住み始め、明治40年頃から鉱山としての開発が始まり、閉山される昭和40年まで、『銅』『硫化鉄』わずかながら『金』『銀』『鉛』が産出された。今では商店らしい施設もほとんどない金居原地区だが、鉱山の最盛期には出口土倉 (堀近村)と呼ばれる集落があり、1000人以上の人が住み、鉱山事務所や職員寮、病院、映画館、商店などが軒を連ねて、運動会や映画館での週1回の映画上映会なども開催され賑わっていた。
そんな賑わいの反面、雪害や、粉塵を吸い込むことで発生する『じん肺病』の被害、鉱山の衰退によって全国に散っていった住人達の別れなど悲しい歴史も多い。現在では誰が管理しているわけでもないため、合法的に見学できる廃墟として人気の観光スポットになっている。
グーグルマップを頼りに土倉鉱山を目指した。
雪道をスニーカーで歩くという愚行を犯してしまい、くるぶしから先が不細工な白いつくねのようになってしまった。道を進むにつれて、くるぶしからもののあたりまで飲み込んでいった。こいつはしんどいな…100m程進んだときに引き返そうかと思ったが、こんな時期で雪が積もっているからこそ、気候のいい時期では見られない風景が見えるかもしれない。ここは辛抱だと思って前に進んだ。しばらく歩くと積雪の上に動物の足跡がパラパラと増え始めた。中にはどうみても鹿や猪、テンなどではない、ドえらくでかいモノがあり、これは熊じゃないのかと思って心細くなっていると、携帯電話が圏外になった。
もう、このでかい足跡がどの動物のものなのかGoogleで検索して、なんだ熊の足跡じゃないじゃないか(笑)と安心することもできなければ、Yahoo!知恵袋に質問することもできない。命の危険を冒してまでこんな時期に思いつきで廃墟に行くことが正しいと言えるのだろうか。引き返そうか再考していると、風が木の枝や葉に乗っていた細やかな雪を振るい落とし、霧状の空間になって僕を包み視界が完全に奪っていった。あぁ、黄泉の世界か、でも千里の道も一歩からと思いながら、さらに進んだ。
これだけ雪が積もっていると、雪の下にとてつもなく大きな落とし穴があるんじゃないかと思えてくるので、自分の足元の雪をを多少蹴散らしながら歩いた。
しばらくすると形態の電波が少しつながる場所に出て少し安心した。
あともう少しで鉱山跡地に到着するというところで、立ち往生している車を見つけた。
この車の持ち主は名古屋から廃墟を見学に来た男性で僕と同い年だった。
僕とは反対のルートから廃墟へ向かっていたらしい。
男性は携帯電話も圏外で使えず車屋さんも呼べない。とりあえず2人してタイヤ周りの雪を掻きだして車輪にサンダルを噛ませてエンジンをかけてみたものの車は動かず、結局、男性が電波の届く所まで進んで車屋さんを呼ぶことにした。
だったらさっきの電波が通じるところに行けば車屋さん呼べるんじゃないか?見事な伏線回収じゃないかと思い、男性をさっき電波が通じた辺りまで連れて行ったものの、あまりに電波状況が不安定で、すぐに圏外になってしまった。
簡単にドラマは生まれないようだ。無駄に歩かせてしまって申し訳ない。
男性はもと来た道を戻り、電波が繋がる場所で車屋さんを呼びに行った。
「車がなんとかなった後にカメラを持って廃墟に行きます」
電話しにいった男性と分かれて廃墟を目指した。
土倉鉱山の風景
後でネットで確認したところもっと廃墟の中を移動できるようだが、雪で進めないことや、何より寒さで体がもう限界になっていた。雪はスニーカーの中に侵入して靴の内からも体を冷やそうとしている。車に引き返すことにした。
戻るとさっきの男性の車はなくなっていた。
日も暮れ始めていたので、これから廃墟巡りをするかもしれない男性が無事でありますように。
車までもどったところ足がこのようになっていた。
レディーガガが『遭難』をテーマに服を作ったらこんな感じだろうか。
車の中に入って少し温まると靴の中に侵入した雪が溶け始めて体の端から冷えてきた。
生まれて初めて生命維持のためにチョコレートを食べて暖を取った。セブンイレブンで買ったブラックサンダーを食べなかったのにはこういう伏線があったのか。地味だが命から喜べた。
とにかく温泉に入らなくては。
観光でもアトピーの治療でもなく体を温めるために温泉に向かった。
『道の駅 星ふる里ふじはし』<岐阜県>
『いび川温泉 藤橋の湯』
岐阜県に入ることには辺りは暗くなっていた。あの廃墟ファンの男性はきっと今日は廃墟探索をあきらめただろうなと思った。道の駅の灯りを見つけて温泉施設に入り、チケットを購入そそくさと温泉に入った。
あぁ。
雪景色を見ながら露天風呂を漫喫できる。地獄で天国とはこのことか。上質な泉質で肌を温められた。
入浴料:510円 タオル:250円 バスタオル:450円
施設内には飲食スペースもあり、食事には地の物が使われているようだった。
体が温まったからって、ちょっと強気になって冷たい『ざるそば』なんか頼んでいる。さすがにアイスクリームを食べる気持ちにはならないが、温もりを損している気がする。※スタッフさんに頼めば蕎麦湯も貰える。
物販コーナーもあり高価なものから白菜1玉80円とリーズナブルなものまである。
▼いび川温泉 藤橋の湯▼
こんな雪の中で車中泊するのは体に良くないと思い、飲食店のスタッフの方に近くに宿泊施設がないか聞いてみたところ、小学校を改造した『樹庵』という宿泊施設を教えてもらった。
電話をするとあっさり予約が取れた(ただし電話したのが19時を過ぎていたため夕食は勘弁してくれとのこと)。この寒さの中で泊めていただけるだけありがたいと思い、さっそく向かった。
▼今回の旅のYouTube動画▼
______________________________________