限界集落旅の名言

限界集落等の過疎地に住む人生の先輩方から「人生訓」を収集する旅

限界集落の旅-街中の限界集落『多摩ニュータウン』の人たちに人生とは何ぞやをインタビューした(1)-

東京の街中にも限界集落がある。

ジブリ映画『耳をすませば』の主人公『雫』が住む街のモデルになった多摩ニュータウン愛宕地区(あたご)は限界団地と呼ばれる集合住宅もその一つで、高齢化に拍車がかかっている。限界集落化の理由は高度経済成長期に同世代が多く集まったものの、高度経済成長期の後、所得が上がらず住民の入れ替えも上手くいかず、一気に高齢化が進んだためである。

 

村ではなく限界集落化の進む街で暮らす人生の先輩方が人生をどう考えているのか聞きに行った。

 

 

2018年の5月頃の多摩ニュータウン

多摩ニュータウンのある京王駅の改札を出ると、駅前ではイベントが開催されていて、売店や汗だくの大道芸人の周りに集まる人だかりの中には子供や学生も多く、思っていた限界集落化のイメージとは違った。駅の中にはマクドナルドや牛丼屋などのファストフード店が並び、駅周辺には飲み屋も沢山軒を連ね賑やかだった。

 

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多摩ニュータウンの様子

駅からどのくらい離れたところで雰囲気が変わるのだろうと思い川沿いや158号線沿いを歩くと、飲食店やガソリンスタンドなどの便利な店があり、住宅も一軒家も集合住宅も多く、駅前のイベントとの対比で静かになる程度で、まだ、そこまで何かしらの『限界』は感じない。ただ徐々にすれ違う人の年齢が上がってきて、愛宕地区に到着する頃にはほとんど人とすれ違わなくなった。

 

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愛宕地区周辺

愛宕地区の団地で突撃インタビュー

 

団地の近くに小さな公園がいくつかあり、そのうちの一つでお爺さんがベンチに腰掛けて新聞を読んでいた。話しかけてみると、気さくに対応していただけた。この時85歳になるお爺さんは競馬を予想していた。

 

競馬好きな85歳男性

-競馬好きなんですか?-

「競馬は勝ち負けじゃない。馬を観るために行く。 馬は正直。ビリでも最期まで一生懸命走る。人間もこうじゃなきゃなって思う。」

お爺さんは、勝つためではなく馬という生き物のショーを見に行く心持ちで2000円もって競馬場に行くという。入場料2000円でアタリ付きのショーだと考えると競馬の印象も変わってくる。でも、のめり込むのは絶対。

 

-(85歳ということで)戦争を経験して思うところはありますか?-

「食料の大切さも、人間経験しないと本当のことはわからない。成長しない」

仕事も食糧事情も戦後に生き延びるにはかなり苦労したらしい。それをふまえてこう聞いた。

 

-最近の若者には、なかなか仕事が続かなかったりしますが、どう思われていますか?-

「ひらに避難できないんだよね自分も3回仕事は変わったから」

お爺さんは運送業やバスの運転手等、時代に応じて必要な資格を取り、自分の周りの環境に合わせて仕事を変えてきたという。

会社が傾きそうになったら、資格取得、そして転職の準備をするしたたかさは見習いたい。高度経済成長期の前後で姿を変える街そのもの様に生き方を変えてきたご主人は「いつの時代でも、生きてるうちは生きにくい世の中だよ」と語り、

「仕事は辛抱足んなくて辞めてもいい。いろいろ経験した方が良いから」と続けた。戦争を経験した人だからか言葉の随所に、とにかく生き延びることを考えないといけない、という考えが見える。旅をしている最中に戦争経験をした人に話を聴くとこういった意味合いの言葉が出ることが多い。

 

85歳になり、ボケ気味で昔のことがわからなくなるというお爺さんはこうも続けた。

「ボケるのは死の怖さから人を救うための神様からの贈り物なのかもな」

ちょっと哀愁を感じる。ボケられると周りは結構困っちゃったりするけどね。

 

-昔の先生って怖かったですか?-

怖かったね、とお爺さん。

「怖い先生だと子供は伸びない。怖いのが先に立って、何もやってみようと思わなくなるからね」気が弱かったんだろうお爺さんの過去を感じる意見。

 

-仕事や日々の生活で人間関係を築くために必要なことは何だと思いますか?-

「外交で皆一生懸命に仲良くなろうとすれば、戦争も無くなるんじゃないかなって思う」

 

その後、しばらく雑談してお礼を言い別れた。

公園を出て団地に沿った道をしばらく歩くと元気なお母さんが庭の草を抜いているのを見かけて話しかけてみた。

 

▼ 肝っ玉母さん風92歳女性▼

-子育てで大事なことってなんですか?-

「仕事がキツいってこと、はじめっから教えなきゃね。 しんぼうを知らないと、すぐ人刺しちゃったりするからね」いっちょ前に働く前にヒトとして生きることは苦しいのだと刷り込ませておかないといけないという。

 

肝っ玉母さんはハキハキとこうも続けた。

「のほほんとしてちゃだめ。 お坊ちゃん育ちが楽して出世なんか無理よ。 私が言うのもなんだけどね」 バイトをしないのは駄目。お金を稼ぐことの苦労を知らないと独りでやっていけないわよ、と語る。さっきの85歳のおじさんより7歳上だからか、より長く戦前戦中の苦しさを体験しているため結構ズバズバ言う。聴いてて割と気持ちいい。討論番組にでも出たらどうですか?といった感じである。

 

「今は本当楽よ。スーパーに行けば何でもあるし」

戦時中を生きた人にはスーパーマーケットはかなりの革命だったのか、豊富な食べ物をいつでも買えるという幸せは代えがたいものらしい。『食べ物に不自由しない』ことが人間の幸せの根源なのかもしれないと思った。

 

 

お礼を言って別れた。

また、団地の周辺をウロウロと徘徊してみた(不審者に思われていないだろうか)。すると今度は体格の良いお爺さんと出くわした。杖をついて歩いていたものの、いぶし銀の顔立ちとガテン系の迫力を感じ、ちょっとたじろいだが話しかけてみたら色々と話を聴かせてもらえた。

 

ガテン系82歳▼

-おいくつですか?-

「自分の齢なんて忘れたな」

いきなりぶっきらぼうガテン系セリフ(勝手なイメージですが…)。ご本人曰く『たぶん82歳』らしい。自分の子供の年齢も大体でしか覚えていないとのこと。ちなみに職業は元土建屋らしく、見た目の通り本当にガテン系だった。

 

-今、お散歩中でしたか?-

「風が強くても坂道を歩く。毎日な」

ただの散歩ではなく、どうやら鍛錬の最中に話しかけてしまったようだった。しかも体を甘やかさず、平地ではなく坂道を歩くというストイックな鍛錬散歩の最中に話しかけてしまった。ちょっと申し訳ない。そして、答えてくれるこのお爺さんの懐の深さよ。

 

-お子さんにどう接しておられましたか?-

「夏に2日、正月に3日しか休み無かったから飯の時くらいしか子供に会えなかった。で もまぁ、その時、良いことと悪いことは伝えてた」

昔の人は良く働く

 

「“知識”は経験の積み重ね。新聞や本を読むことじゃない。そうしたら自然と世の中の 動きも見えてくる。馬鹿でも賢くても、それは一緒」

『世の中の動きが見える』という特殊能力は誰でも身に付くという。頑張って長生きしていればそのうち特殊能力に目覚めるらしいから『自分には何の能力も無い…』と思って卑屈な気持ちにならくてもいいらしい。目覚める瞬間がちょっと楽しみである。

 

-土建屋になられた理由は何ですか?-

土建屋になったのは何となく。他の人より手が少し器用だったから。人生なんて ちょっとのきっかけで大きく変わる。手が器用で別の大学に行ってたら、職人になっていたかもしれないな。 多くの人が自分のなりたい夢の通りにはいかない。ただなんとなく。しょうがなく。自然に生きている」

 

ガテン爺さんは僕が30歳(当時)だと知るとこう語った。

「30代一番良い時。焦んなくて良い仕事も結婚もまだまだ選べる、失敗もできる時期だ」

失敗するのは怖いですけどね。仕事や転職でうまくいかずに苦しみの渦中にあると、なかなかそうは思えないんですがね、人生を長く生きて、振り返るとそう思えるらしい。

 

「人間どっか悪くなると、他は悪くならない」

ガテン爺さんは片目がほとんど見えず、もう片方の目もあまり見えないというが、耳がものすごく良かった。

 

-仕事場で人間関係を作るには何が一番大事ですか?-

「人間関係つくるのは呑みの場じゃない。普段の行い。人は誰かしら見てるから」

数百人の職人を束ねる親方数十人との人間関係を築くのは簡単ではなかった。しかし別段すばらしいことをしなくても、後ろ指さされる様なことをしなければ、人間関係は築けるとガテン爺さんは語る。そして、最近の企業についてこうも語った。

「最近の大手の上役、下の人を育てるのが下手になってきたとのこと。詐欺とか横領とかして、そんな先輩は尊敬されないし、部下も真似するから良い人間は育たない」

 

「先輩が模範だ。後ろ指さされる様なことしちゃいけない」


「泣かせることも、人を仕込むってことだよ。これができるかできないかで会社の良さが決まる」

当時、僕の近くに新卒で建築屋の見習いをしている知り合いがいたからその子を引き合いに出して、知り合いの新卒の建築屋見習いの子が仕事で怒られて泣いていたりします、と言った。

「それだ!それが大事なんだ」ガテン爺さんは熱くなった。仕事の出来だけでなく社会生活を行う上での常識やモラル、礼儀作法を教育する場が今の世の中減っちゃったのかな。


「(人間関係を築くには)自分で自分を見張る。反省しながら」

素晴らしいことをするのではなく自分の悪い部分と向き合うこと。後ろ指を指されないこと。これらが良好な人間関係をつくるきっかけになるという。

 

お爺さんの鍛錬(散歩)の続きもあることだし、この辺りでお礼を言い別れた。

 

次回:街中の限界集落多摩ニュータウン』の人たちに人生とは何ぞやインタビューした(2)-

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