限界集落旅の名言

限界集落等の過疎地に住む人生の先輩方から「人生訓」を収集する旅

限界集落の旅-兵庫県篠山市編(3)後川(しつかわ)で拝聴した名言-

前回の続き:兵庫県篠山市の過疎集落である後川(しつかわ)を訪れた。雨の中、たどり着いたドライブイン後川で農家兼ドライブイン兼、色々やってこられたブルドーザーみたいな男性に会い話しを伺うことにした。

 

 

▼前回の記事▼

genkaishuraku.hatenablog.com

 

後川のブルドーザーさん(60歳男性)が語る人生の教え

「ウチで育った米は篠山米じゃなくて後川米や」

篠山市の後川という地域はお米が非常に美味しく育つ。

山に囲まれた地形のため、雨が降ると山から麓に流れ込んだ栄養が川の水に乗って田んぼに流れ込むのだそうだ。図で表すとこのような形ではないだろうか(ところどころ誤字があるので探してみてください)↓

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米が美味しく育つ地形の図

 

「日本なんてどこも山に囲まれているじゃねえか!」と思うかもしれないけれども、1度食べてみるとよい。白く、程よい粘りが心地よく、やわらかな甘みが特徴的である。体調が悪いときなんかに滋養強壮が高まるのではなかろうか。

地域限定スペシャル米の静かなる旨味である。

そのような背景もあって、男性曰く篠山市の中でもこの後川の米はピカイチだと語る。

ちなみにこの米を封じてある米袋の背面にはマジックで「後川米」と書かれていた。

農家のプライドが垣間見える泥臭くもカッコいいアピール。

それだけの自信があるからこそ僕が「この米旨いですね」と思わずもらしたときに嬉しそうな顔をされたようだ。

 ※米を育てるときの秘伝隠し味も教えてもらった。

まさか土にアノ栄養を与えるなんて...!

 

「田舎に夢だけもってきて1年くらいでケツ割るくらいなら、とりあえず調べてから来い」

田舎暮らしが流行(?)の昨今、後川にも自給自足や無農薬栽培に憧れてやってくる人たちがしばしば見られるそうだ。

しかし無農薬栽培といって本当に何も農薬を使わずに植物を栽培すると、苗を植えたその夜のうちに「根切り虫」という虫が植物を駄目にしてしまう。

こうした現実を目の当たりにして心が折れてしまう人が多いらしい。

一旦、田舎に来る前に自分の目的を整理した方が良い。

「自給自足」なのか「無農薬栽培」なのか「大きめの家庭菜園を育てる」のか「商売」なのか「趣味」なのか。

選ぶ生き方によっては老後さらに腹をくくらなければならなくなる。

男性曰く「取りあえず調べてから来い」とのこと。

 ※自給自足というのは実質不可能なようです。それはまた別の記事で紹介します。

 

「人の気持ちが返ってくるのが嬉しい。お金は後からついてくる」

500回は聞いたような言葉。しかし、本当にそう思って60年間過ごされてきたのだから間違いなく幸せの本質はこの言葉の中にあるのだろう。

この当時、僕は妙に荒んでいて電車広告の『「ありがとう」って言われるだけで、疲れとか、ぜんぶ吹っ飛ぶ。』という見事なキャッチコピーに「お礼だけでは払拭できない負の部分があるやろがい!」と苦言を呈したかった。

 

この言葉は商品を売り買いする関係だけではなく、仕事仲間との関係も表している。

というのも農家の方は命を削るがごとく手間隙をかけて作物を育てるため、良い物を作ろうとすれば当然、誰かの助けが必要になる。

 

 

そんな状況を見かけたとき快く自分から相手の仕事を助ける、機材を貸す、収穫を手伝うと次回、恩返しにと相手が自分の仕事を手伝ってくれる。

集落では90歳代の人が70歳代の人を助け、お返しに70歳代の人が90歳代の人を助けているそうだ(これを都会では老老介護というのだろうか。実に爽やかだ)。

 

このように感謝でもって人間関係が繋がり日々助け合えば1人ではできないような良質な仕事がこなせる。村全体がこの考え方で繋がればさらに大きなことができる。この考え方は「徳」と呼ばれるものなのだろう。

余談:人徳について

後に滋賀県を訪れた時にある女性から

「徳っていうのはこの人に何かあげたからそのひとから何かもらえるんじゃない。

この人に何かあげたら別の人から2つも3つももらえることがあるんだよ。

人徳ってそういうもの」と拝聴した。

GIVE & TAKE の上位互換のような意味合いである。

 

自分の利益のために人を使ってたらあかん。人の和が大事や」

男性はこの助け合いを「人の和」といった。

せっかくなのでと集落の人たちが仕事をしているところを見せてもらった。

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人の和の形

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人の和の形

仕事場で男性が開口一番 「みんなありがとうな!」。

現場は「水臭えな当たり前やろ、こんくらい」ってなもんである。

 

この人間関係を築く為にも「自分の利益のために人を使ってたらあかん」そうだ。

 

「成功する為には正攻法ではいけない。迂回しまくれ」

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成功する為の迂回図

この男性は学生時代から農業をやりつつ、時代の流れに合わせて飲食店やガソリンスタンドなど様々な事業を経営してきたそうだ。

「成功するためには正攻法ではいけない」大きな目標があればそこに向かってまっすぐ進むのではなく迂回しまくるといいそうだ。

「ある事業に700万円必要だとしたら、別の事業をやって500万円くらい元手を稼いで、あとの200万円は人に借りたらいい。そうやって目標に近づいていく」と語る。

 

というのを知人に話したら「てやんでぇ、そんなこと俺でも言えるわぁ!」といわれたが言うのとやるのは段違いなんじゃないかな?と思った。

 

ちなみにこの頃に読んだ漫画「バガボンド」31巻に

「ただ真っ直ぐに一本の道を進むのは美しい
じゃが普通はそうもいかぬもの 
迷い 間違い 回り道もする それでええ 
振り返って御覧
あっちにぶつかり こっちにぶつかり
迷いに迷った そなたの道は きっと誰よりも広がっとる 
道が広がった分 おぬしは 誰よりも人に優しくできる」

〜「バガボンド」31巻より引用〜

と書かれていたのを思い出し「そういうことか!」と脳がひさびさにアハ体感した。

 

仕事がうまくいかないときは「百姓でもしとけ」

仕事でにっちもさっちもいかなくなって行き詰まったら自分を責めずとっとと辞めて落ちこまない。男性曰く「空元気でええ。人が寄ってくる」とのこと。

過労死の問題がニュースになっていたこともあり

「アカンかったら次や。どうとでもなる。終いいうのは死ぬときだけや。せやから自殺なんか逃げるようなことしたらあかん」という話しになった。

「百姓でもしとけ」発言は、男性の知り合いの息子さんが鬱病になったときに言ったことで「自分が指導する。気が済んだら別のことをすれば良い」とのこと。

実際、旅を続けるうちに「土に触ると気が晴れる」という人に多く出会うことになる。

 

ちなみにこの男性がブルドーザーみたいな男と呼ばれる理由は色んなことにパワフルに取り組んでいるからである。後川に生きる平成の田中角栄といったところか。

 

話し終わった後、周囲は真っ暗。電灯もあまりないから駐車場所までいくのがもの凄く怖かった。当然、漆黒に包まれた帰りの山道ではさらに脱輪の恐怖と戦うことになるのだった。

 

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この日の後川旅日記

次回:篠山市大芋編

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