限界集落の旅『栃木県日光市日向(旧栗山村)』-マムシの旨みを教えてくれた和食屋-
栃木県の日光市の中三依という集落で、自治会長さんや自給自足の家族、カフェを経営するガタイのいいお爺さんに『人生の格言』を聴いてきた。こうした旅の合間に寄った飲食店のオヤジから『珍味』と『名言』を頂いた。
▼前回の記事▼
山水庵
中三依集落から121号線をくだり、下の赤丸部分のグレー色の道を右折して23号線に移り、曲がりくねった道を進む。さらに右折して真っすぐ進んだ先の右手に見える『山水庵』という和食屋に立ち寄った。
旅の途中に何度か店の前を通ったが入店は初めて。「いらっしゃい」
快活なオヤジさんが出迎えてくれた。
盛り蕎麦を注文した。『松や(自治会長さんの店)』で食べた手打ち蕎麦と同じく、並みの量のはずなのに、やはり1.5倍くらいの量の手打ちそばが出てきた。『知り合いにサービスしているうちに徐々に盛る量が多くなってしまった理論』を教えてくれた『松や』のオヤジさん。実際にこの理屈が正しいのか『山水庵』のオヤジさんに聞いてみたところ、ウチはそんなに忙しくないときに盛っちゃうね、とのこと。
理由は店舗ごとに異なるが栃木県の山間の店でそばを注文するとしれっと1.5倍の量が出てくると考えてもよさそうである。
オヤジさんはかつて高級料亭で働いていた経験があるため味はバッチリ旨い。
醤油ベースの麺つゆは『松や』と同様だが、やや味が繊細な気がした。
夜の20時頃だったせいか他にお客がいなかったため、なんとなくご主人と話こんだ。
【心霊スポット?】霊感のある人が通りたがらないポイント
「どの道から来たの」
「この店の、多分、東から。三依からの山道を通ってきました」
「あの道、霊感の強い知り合いが、絶対通りたくないってんだ」
「えぇ?」
下の地図の赤丸で囲った23号線のことである。
「ちょっと!そこ通って帰るのに…」
あの曲がりくねった道は確かに暗くて寂しかったし、恐ろしげである。僕は霊感が全くないから実害はなかったが、本職の方や神経質な方が行くと、何かしら感じる以外にも見えたり聞こえたりするかもしれない。とはいえ徳島県美馬郡つるぎ町のお寺のご住職に『霊は居るには居るがそんなに居ないし、居たとしても悪いものじゃない』また、『人は思い込みで生きている。霊も多くの場合、思い込みが人に霊を見せている』と教えてもらったため、割と冷静な気持ちだった。
ただ、車のライトを反射した、目ギラギラの鹿はパッと見、妖怪変化の類に見えるし、ぶつかると廃車になる上、罪の呵責にも襲われるため霊よりも厄介である。
ただ、霊ではなく人間はいるかもしれない。田舎の山間部は人知れず人生を終わらせようとする人が訪れる傾向があるらしく、他府県のナンバーが掛かった車が道の脇に長期間停まっているとみると、駐在さんや住人はとりあえず、車の窓から車内を確認するというのを別の集落の人から聴いたことがある。
よく都市伝説や怖い話で『都会から田舎に訪れて夜になり、温泉まで歩いていると、途中の集落で住人に見られて不気味だった』という展開があるのは、本来、観光客が歩くはずのない時間に外を歩いているから、何が目的なのか気になるからだと思われる。
そして、一方的に不気味さを感じた観光客が土着の風習と結び付けて都市伝説化するといったところなのだろう。
「別に勝手に死ぬやつのコトなんかどうでもいいじゃないか」と思われるかもしれないが、後に行方不明者の捜索に山の中を散策しなければならなかったりするため村の人からしたら迷惑な話らしい(しかもだいたい見つからないという)。
とはいえ、山水庵のある場所は『栃木県日光市日向(旧称:栃木県塩谷郡栗山村大字日向)』と呼ばれる地区で“ひなた”というだけあってめちゃくちゃ日当たりがいい。晴れの日に陽の光をキラキラと跳ね返す鬼怒川を横目にドライブすると清々しい。
究極のオトナの遊び
話はオヤジさんの趣味の話になった。
「究極のオトナの遊びは狩りだよ」
そう語る通りオヤジさんの趣味は狩りである。狩猟解禁になると山に出かけて鹿やサル猪といった害獣に分類される動物たちを撃ちに行く。これがなかなかスリリングかつシステマチック。『せこ(追う人)』と『たつ(待つ人)』に分かれて、ターゲットを追いやり、逃走ルート上に先回りして、タイミングを見計らい撃つ。
撃った動物は市区町村や国から報奨金が出る(価格は各地域により異なる)。
狩猟の難易度は動物により異なるが、一番難しいのはサルだとのこと。
圧倒的な組織力で山中への侵入者の情報を瞬く間に群れに拡散し、抜群の身体能力でハンターの前から姿を消す。さらに猟銃を持っていない人には攻撃をしかけてくる。サルを一回も撃ったことがない人には強気に出て、猟銃を持たないうちはサルにいじめられるらしい。
▼【図説】猿からの仕打ち▼
猿を撃った経験のないヒトが猟銃を持たないうちに山に入ると『岩落とし』の刑を処されるという。「猟銃を持ってなかった頃は、ホント猿にいじめられたよ~」と語るのは栃木県の狩猟家の男性。猿が小さい岩を転がし、その岩が少し大きい岩にぶつかるのを繰り返して、猟師の元には大きめの岩が落ちてくる
勿論、猟銃を持っていたとしても命の危険はあったり、2年おきの講習や猟銃メンテナンスを手間を差し引いても何事にも代えがたい趣味だとオヤジさんは語る。
撃った動物は自己責任でありがたく肉を食べる。
胃の調子が悪い時はマムシの胃を食べると良い
「マムシを見ると旨そうにしか見えないんだ」
続いて食の趣向の話になった。オヤジさん曰く、マムシが旨く、特にメスだけが持っている卵は珍味とのこと。また、マムシは乾燥させると薬にもなる。例えば胃の調子が悪い時にマムシの胃を食べると、お腹周りが嘘みたいに暖かくなり、汗が出て、不調も治ってしまうという。
「胃の調子が悪い時はマムシの胃を食べると良いよ。マムシは頭を潰して皮はいでも体が動いてるからな、凄い生命力だよ。そりゃ薬にもなるって」
【マムシの毒について】
・主に出血毒、若干の神経毒(即効性と高い致死性)
・症状:たんぱく質を溶かし血管組織破壊。激痛と内出血による腫れ。手当てが遅れると循環器、腎臓への障害。
・注意する期間:6~10月(メスが妊娠中で食欲旺盛かつ、神経質になっているため気づかずに近づくと襲ってくる恐れがある)
毒の強さ:LD50=16 (mg/kg) ハブの約3倍
被害状況:咬傷被害3,000人/年 死亡10人/年
死亡率:0.3~0.4%
低いようにも思えるが、日本の蛇での死亡例は多くの場合マムシだという。
【マムシの頭の処理の仕方】
マムシは頭に毒を持っているため、頭さえとってしまえば安全らしいが、頭は死後も動くから油断ならない。マムシの頭は土に埋めて処理しないといけない。
【マムシに噛まれてしまった場合】
マムシに手の平を噛まれた場合、手の甲と手の平を通すように傷口に穴をあけ、そこに布を通し毒血を抜く方法があるらしい。かなり痛々しい。
抗毒素血清を投与してもらえる病院に行った方が良いので上記の方法は無視してください。
「マムシってそんなに手に入るもんなんですか」
「岩場に巣を作るからちょっと崖になったところを登ると居たりするよ」
崖を登るときにはちょっと期待するらしい。
カエルなんかを食べようとして道に出てきたところをたまたま頭部を車に轢かれたりしたマムシを見ると、いいとこ踏まれてんな、と思ってありがたく頂戴する。
「マムシ食べてみる?」
マムシ話に花が咲き、ご主人が今、保存しているマムシを食べさせてもらえることになった。しかも、卵を持っているレアものメス。
この卵をバターでもってホイル焼きにするというのだ。 なんていう裏メニューがある店なのか、色々、しゃべってみるものである(ちなみに狩猟期間中は、店内に獲物が保存してあればお客の自己責任で食べられる。あくまで自己責任なのでお店側は代金は貰わない)。
マムシの卵をホイル焼きにしたのがこれ↓
マムシの卵のホイル焼きは淡泊ながら卵のまろやかさと妙な存在感のある味で、食べてから数か月経った今でも思い出す。芳醇なバターと合わせても、卵の存在感が殺されていないところに強い生命力を感じる。おそらく銀杏の様に調子に乗って食べまくっていたら鼻血が出る類のパワー食だと思われる。
マムシに塩を振って焼いたもの↓
塩を振って焼いた皮の方はカリカリと香ばしい皮からにじみ出るジューシーな旨みエキスと塩気が合わさり、酒の肴にちょうど良いキャッチーな味だった。どちらもまた食べたいと思った。
貴重な体験ありがとうございました。
狩猟期間にまた来ますと言って店を後にした。
______________________________________